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「お前の言い方だと生きている風に聞こえるんだけど、根拠は?」
「生きてる。あの子がいなくなって、一ヶ月が経つ頃、これを送られた」
そう言って天凱が懐から取り出したのは金糸が刺された朱色の絹帯だ。紅琳のだ、と天凱は絹帯を見つめながら呟く。
「紅琳にも会った」
「いつ?」
「半年ほど前、直接ではないがあの声は確かに紅琳だ」
ふうん、と英峰は鼻を鳴らす。
「おそらくだけど、紅琳のガキがいるとしたら後宮だな」
「君もそう思うか」
「まあね。とりあえず、こいつの相方探しから始めるか。どうせ、宮女だろうし」
「そうだが、難しいぞ」
「お前が手をこまねいて、大人しく愚王に徹しているぐらいにはな」
「後宮は一つの国だ。私の権威も奥までは届かない」
「そ。だから、俺達は後宮に駒を送る」
にやり、と下卑た笑みを浮かべた英峰は、立ち上がり、紫苑のそばにくると肩を抱き寄せる。
「紫苑が妃になって後宮入るんで」
まさかの提案に紫苑と天凱は目を剥いた。
ただ、二人の心中は異なる。また奇想天外なことに付き合わされると紫苑が憂いているのに対し、天凱は知人の頭がいかれた提案に驚いた。天凱は紫苑の正しい性別を知らない。知らないからこそ、中性的な優男を女装させて忍び込ませるという意味に聞こえたのだ。
「彼に女性の装いをさせるつもりか? さすがにバレるだろう」
どれほど位が低い妃嬪でも世話役に侍女が宛がわれている。着替えや入浴、就寝など、性別を知られる場面は数多くある。
そう告げれば、英峰は笑った。にやにやと、いやらしく、不愉快な笑みを浮かべた。
「こーいうことですよ」
英峰は天凱の手を取ると紫苑の胸へと誘導した。さらしを巻いているとはいえ、凹凸は完全に真っ直ぐにできるわけもなく、天凱の手に微かな膨らみが伝わる。
天凱は目を瞬かせた。紫苑は太ってはいない。鍛錬を積んだ身体は無駄な肉はついておらず、引き締まっている。男でも鍛えられた胸筋は柔らかいと言うが、手のひらに伝わる感触は男のものではないと教えてくれた。
確かに紫苑は中世的な美人である。日に焼けていても手入れされた肌は滑らかで、まつ毛は長く、女と言われたら迷わず頷いてしまうだろう。
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