4.闇夜に紛れて

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 ……着々と紫苑の性別が正しい方へと傾いていくのは、紫苑が顔を真っ赤にさせて震えているからでもある。いつものキリッとした表情は今や少女のように恥じらい、正直に言えば可愛らしいものへと変わっていた。 「あなたは何を考えている!!」  英峰の頭部に紫苑の拳がめり込まれた。  先ほどと比べて、力加減一切ない。紫苑の本気の拳は武芸のど素人である天凱でも「これはヤバい」と察する威力だ。  そして、恐怖に震えた。不可抗力だとしても紫苑の胸に触れたのは自分だ。あの拳が自分にめり込む前に天凱は急いで頭を下げた。 「すまない! わざとではないんだ!!」  英峰の生死よりも、自分の身が第一だ。天凱は許しを()うべく、声を張り上げる。地面に膝を付き、額を擦り付けようとした時、紫苑が慌てて声をかけてきた。 「悪いのは英峰なんで大丈夫です。お気になさらないでください」  天凱は何も悪くないと言外に伝えてくれて入るが、その英峰を睥睨(へいげい)する目は一寸たりとも笑ってはいなかった。 「俺が全部悪いのかよ」  地面に突っ伏した体制のまま、英峰は不満げな声をあげる。あの拳を受けて平然としている旧友の姿に天凱はぞっとした。嫌に根性があるやつだと思っていたが、耐久もあるなんて知らなかった。知りたくもなかった。 「あなた以外、誰が悪いの?」 「お前と天凱」  紫苑の胸を触ったのは置いといて、紅琳のことを黙っていたのは自分に否がある、と天凱が思っている側で紫苑は迷わずその背中に足を落とした。  ぐえっ、と蛙が潰れた声がする。 「あなたが悪い」  そうでしょう? とドスが利いた声で問いかけられても英峰は鼻で軽く笑うだけだ。 「それで、どうするの?」 「どうって?」 「いい案があるんでしょ?」 「まあな」  英峰は目を細め、紫苑と天凱を交互に見つめた。 「無能な王様なら、それらしく行けばいい」
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