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「ねえ、聞きまして? 後宮のあっちこっちに散らばっていた肉片、やはり春妃様のようよ」
「自殺でもなさったのかしら? 最近、臥せていらして表にでてこないとお聞きしましたし」
「違うわよ。バラバラにされていたそうだから誰かに殺されたんでしょ」
「あら、それは酷いですね。穏やかで誰かから恨みを買うようなお人ではなさそうなのに」
「さあ、でも季妃のみなさまって、ほら、ちょっと独特じゃない? 変わっているというか、なんていうか」
ひそひそと飛び交う噂話は後宮という園でも変わらない。
いや、市井よりも密接した空間のせいか、泥をさらに煮詰めたように醜かった。
(こんなところで話さない方が……。下手したら処罰を受けるかもなんだし)
できる限り身を小さくし、牡丹の生垣の陰に隠れていた紫苑は側で交わされる二人の侍女の会話に冷や汗を流した。噂は娯楽というけれど、誰かに聞かれるような場所で、不敬罪に当たる会話をするだなんて。もし、紫苑以外が耳にしていれば鞭打ちで済めばいい方で、最悪、処刑だろう。
「ひどいことをいいますね。危機感がないのでしょうか」
紫苑と同じく身を小さくした雨蓉が声を小さくさせて囁いた。
「舐められているのかな」
「紫苑様は威厳なんてありませんものね」
「必要なかったからね。誰かに威圧的に接するなんて、これからもしない行為だと思っていたよ」
不穏な会話を楽しむのは皇后となった紫苑に、天凱が与えてくれた侍女たちだ。全員が名家の生まれで、美貌も教養もある。
……はずなのだが、今の会話を聞いている限り教養はあっても常識はないらしい。
「それで、いつまでここにいます?」
「出ようにも出れないよ。あの会話を聞いていたと分かれば、皇后としてきちんと処罰をしなければいけないからさ」
「もうっ、だったらどうして〝気分転換に散策に行きたい〟だなんてわがままを言ったんです!?」
「……だって、彼女たちとずっといると皇后を演じなきゃいけないから疲れるし」
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