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「まあ、冬妃様。どうなさいました」
司馬冬妃の存在に気付いた侍女二人がぱたぱたと足音をたてながら近付いてくる。生け垣があるといっても近くに来られれば見つかってしまう。紫苑がどうすべきか迷っていると司馬冬妃は目元に笑みを浮かべた。
「出迎えはけっこう。崔皇后陛下に会いにきただけだから」
すると足音が止まる。
司馬冬妃は更に目元の笑みを濃くした。
「崔皇后陛下はどちらにおられる? 殿舎にはいないと言われて、ここに来たのだけれど」
その言葉に紫苑と雨蓉は視線を交わす。司馬冬妃は確かに紫苑の姿を捉えているはずなのに、まるで存在しないように話を続ける。
「季妃様方は御殿から出てはいけないとお達しが出ているはずですけれど」
毒舌な方の侍女が軽蔑をはらむ口調で言葉を吐き出した。
「司馬冬妃様の元には届かなかったようですわね」
「ちょっと、そんな言い方」
「許しもなく、単独で鳳凰殿に来るだなんて崔皇后陛下はお許しになりませんわ」
司馬冬妃は軽く目を細め、侍女をまじまじと見つめた。
「聞いてはいたんだけれど、お耳に入れたいことがあって。姫春妃の件だから早めがいいと思ってね」
「あら、でしたらわたくしどもがお伝えいたしますわ」
「いいえ。信用できない人間に頼むことはできない。私が直接伝えるから大丈夫」
ぴくり、と侍女の眉が跳ねる。
小柄な侍女が諌めようと伸ばした手を払いのけると胸に手を当てて、背中を反らした。
「わたくしたちは崔皇后陛下の侍女ですのよ!」
「慶王様がお付けになっただけで、崔皇后陛下が自ら連れてきたのは一人だけだと聞いているけれど」
主人の権威を振りかざそうとした侍女は、その言葉に顔を赤くさせた。
その顔を一瞥した司馬冬妃は袖で口元を隠す。
「現に、崔皇后陛下は散策に出た際にその連れてきた侍女しか伴っていない。いかにご主人様が後宮で一番の権力を持っていても、それは君が振りかざしていいものではないことを自覚しなさい」
「な、な、なんて言い方……! わたくしの家はあなたなんかより上なんですのよ!?」
「それでも私は冬妃で、君は侍女。仕える相手が崔皇后陛下でも後宮では私の方が立場は上」
ふっと司馬冬妃が鼻で笑うと侍女はぎりぎりと歯を擦り合わせ、射殺さんばかりに睨みつける。
「覚えていらして! 絶対に後悔させてやるんだから!」
裏返った声で吐き捨てると大股で殿舎へと向かって歩きだした。
「あ、あの、彼女が失礼を」
顔を真っ青にさせた小柄な侍女は司馬冬妃に向かって頭を深く下げると踵を返して怒り狂う同僚の後を追って行った。
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