1.溶けゆく赤

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「崔皇后陛下もじゃ大変ね。ああいうのが四六時中、そばにいるだなんで考えただけで気が滅入る」 「……司馬冬妃、匿ってくれてありがとう。出るにでられなくて困っていたの」  やんわりと、朝礼での言葉使いを思い出しながら紫苑は清廉された動きで立ち上がった。侍女から逃げるためにうずくまっている姿を見られた時点で威厳とは皆無だが、取り繕えるなら取り繕った方がいいに決まっている。  司馬冬妃は一瞬だけ固まると笑みをこぼした。先ほど、侍女をあしらった時のような蔑むようなものではなく、柔らかな太陽のような笑みだ。 「演じなくて結構です。今ここには私達以外いませんから、話やすい言葉でかまいません」 「……なら、そうさせてもらうよ。正直、あの言葉遣いは苦手で」  背中を刺す雨蓉の咎める視線を感じながら紫苑は肩をすくめてみせた。 「分かります。私も苦手ですから」 「司馬冬妃もくだけた言葉でいいよ」 「では、お言葉に甘えて。さっきは侍女達をからかってしまい、すみません。言っていることは彼女達が正しいけど、言い方が腹たって」  にっこりと笑っているが探るような目だ。  紫苑はその真意を探るべく、黒曜の瞳を見つめ返した。 「その件はあとで彼女達に注意しておくよ」 「いえ、大丈夫。崔皇后陛下はそういうの苦手そうだし」 「……」  図星である。相手が英峰なら注意できるが、それ以外の相手となるとどう伝えればいいのか分からない。  雨蓉もうんうんと頷くので、視線を投げて制した。 「私、崔皇后陛下に話たいことがあるのだけれど、お時間いい?」 「姫春妃のことって言っていたけど、何か心当たりがあるの?」 「ええ、まあ、それなりに」 「なら、場所を移動しようか」 「殿舎は無理。他の人は信用できないから」 「……庭園の四阿(あずまや)はどうだろう?」 「誰も来ないのなら、そこで。崔皇后陛下と二人で話したいわ」
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