3年生編 ① : 牛に引かれて善光寺参り

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「そうか? まあ別荘というか、元々は昔住んでいた家なんだ。湖も山も近いし俺は気に入っているんだが・・・親が不便だからと今の家に引っ越して、勿体ないから貰った」 「もら・・・っ、スケールっつーか住む世界が違うわー・・・」  車はまだ分かる。だが家を貰うなど考えたこともなかった。しかも五十鈴家が今の家に引っ越したのは馨が高校生になる前だと言う。  金持ち凄い、金持ち恐い、と諒は温くなった紅茶と一緒にそんな感想を飲み込んだ。 「敷地内の管理は問題ないし、いい所だぞ」 「ふぇー、軽井沢かー・・・塩沢湖?ってどのへんでしたっけ」 「軽井沢周辺を囲ったら大体中央辺りだな」 「うわぁ、地価高そう」 「あの敷地面積ならそれなりにするだろうな」  あっさり肯定され、諒は彼をただの高校の先輩として扱っていた事と、それを良しとしてきた馨の本来の寛容さを改めて思う。  馨個人としか関わりがなかったからか、家のことなど興味も無かったし、本人のイメージが如何せん残念な美形でヘタレで恋愛初心者丸出しで───まあ兎に角、慣れ親しんで身近に感じ過ぎていたのかもしれない。  裕福なのは分かっていても、その実感が無かったからか、こういう現実の話を聞くとやはり肝が潰れる。  だからといって、諒も瀬戸も、馨に対する見る目が変わることはない。  夏休みの旅行の件は、これから詳しい予定を決めようとその場で落ち着いた。  瀬戸が職務に戻ってから、馨の話に集中して手をつけられずにいた昼食を味わいつつ、世間話で穏やかな時間を過ごした。  その時間の中で諒は、蒼司が終始顰め面なのは馨の外見や雰囲気の変化などが関係しているような気がした。  それから一週間も経たずに、馨から日程の連絡が来た。夏休みに入った八月の中頃、三泊四日、集合は朝の九時頃、最寄り駅のロータリーがない南口。自分たちが人目を引くと分かっていて、東口の人通りの多さを考えた結果だろう。賢明な判断である。  それ以外の詳しい話は、移動中や軽井沢の家に着いてから決めても構わないという。ガチガチに予定を決めてしまうと息抜きにならない、と馨はよく分かっていた。  四日目の夕方頃に帰宅する予定で、諒は両親と従姉の夏樹、伊織と多貴にも連絡を入れた。  頻繁に連絡を取っている友人たちには、メッセージアプリのグループから避暑地への予定が入った事を知らせた。  夏樹からは、不在の間は仁科家に寝泊まりする、土産楽しみ、と返信が来る。伊織、多貴からは「お土産宜しく」といつも通りの返事に、伊織からは追加でメッセージが送られてくる。  伊織は夏休み中、多貴の祖母の家へ行くという。  諒たち幼馴染み三人組と夏樹は、幼い頃から多貴の祖母に浴衣を繕って貰っている。今回はその着られなくなった浴衣を持ってきてほしい、と頼まれたようで、諒の所にも浴衣を回収しに行くという。夏樹の分も仁科家にあるので、纏めて回収してもらう予定だ。  多貴達が祖母の家に行くのは、諒たちが旅行から帰ってきた後だというので、一応すぐに渡せるように準備だけはしておくことにした。  メッセージアプリのグループメンバーである幸春からは「いってらっしゃーい、お土産楽しみにしてるっす!」と顔文字付きで、桜井からは「お気をつけて! 四人が映っている写真をください!沢山!」と吹き出しが三つに分けられて連投された。  廣田からも「道中は気を付けてね」と気遣いの言葉だけが送られて来たが、本心でそう言っているのがよく分かる。  
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