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「───結構な量になったな」
「ね。まあ男四人で三日もあるし、使い切るから大丈夫」
レジに並んだ時、カートの上下を使ってカゴ一杯に詰め込まれた食品や必要雑貨を眺めて言った馨に諒は笑った。
会計に四人いる必要は無いため、カートを押していた諒と支払い担当の馨だけがレジに並び、蒼司と瀬戸はその先で待機している。離れて見ると並んで立っていて違和感のない二人である。
外見が厳つい瀬戸と柔らかい蒼司で正反対とはいえ、なかなかに調和が取れている。
「あの二人、並ぶと面白いな・・・」
「瀬戸の凶悪さが緩和されているようだ」
「近寄り難いからなぁ・・・イケメンだけど」
「ところで、なぜ俺は瀬戸に睨まれているんだ?」
「あは、本当ヤキモチやきなんだから。可愛いったらないよね」
「アイツを可愛い子扱い出来るのはお前だけだな」
「でしょーね。でもそれで良いんでーす」
「それもそうだな」
会計を済ませてさっさと袋に詰め、四人は旧五十鈴邸へ早めに戻った。
時間が夕方に近付いても外はまだ昼のように明るい。蒸される暑さはないが、陽射しが痛いほど肌を刺してくる。
「地元より涼しいけど・・・あーっつい」
「少ししか出てないのに汗凄いよね・・・」
暑さに弱い蒼司は荷物を運びながら弱々しい声で嘆いて、襟を揺らして風を起こしているが、あまり意味はなさそうだった。
快晴は太陽が雲で隠れる隙がないため、照り付けてくる熱を遮断する帽子が必須で、これが無ければ眩しくて目を痛めるかもしれない。
邸宅に戻れば空調設備万全の室内は心地好く、食品を分けながら冷蔵庫に入れているうちに汗が引いてくる。
明日の朝食を考えながら袋を畳む諒は、隣で同じ事をしている蒼司を見上げた。
「夕飯一緒に作ろ」
「え、うん。いいよ」
夕食は蒼司と作ることに決めて、今日最も働いた馨には瀬戸と遊んでいてもらおう、と諒は大きい荷物を端に移動している2人に近付く。
「おふたりさん、夕飯は蒼司と作るから、トランプでもしててよ、持ってきたから」
「用意が良いな。よし瀬戸、ポーカーするか」
「何で乗り気なんだよ・・・」
諒がバッグからトランプを出して渡すと、瀬戸はそれを受け取り馨の提案に渋い顔で「わざわざ頭使うやつ」と言いながら、しかし大人しくリビングのソファに行った。
瀬戸が嫌とは言わないのは、馨が楽しそうで、その喜びが表立って分かるようになったからだろう。仮面が外れた馨の人間らしさは愛嬌を感じる。
トランプを弄るふたりを背にキッチンへ戻ると、蒼司が炊飯スイッチを押していた。
「何作るの?」
「んー、折角買った野沢菜漬け食べたいし、刺身買ってるし、とりあえず味噌汁となんか他に副菜ほしいかな。朝に使う野菜の仕込みもやる」
「お店の人みたいな事言うね」
「そうか?朝はサクッと終わらせたいし」
「分かるよ、面倒だもんね」
諒は手を洗いながら、蒼司が出してくれた品物を眺めた。滞在は三日なので処理が面倒な揚げ物はやらない事にしている。
スーパーマーケットで見つけた信州サーモンを〝さく〟で買ったので、折角ならば刺身で味わいたい。
新鮮な夏野菜のオーブン焼きや、伊織に教えてもらったドレッシングも作ろう、と考えながら、小さめの信州味噌で味噌汁と、野沢菜漬けを添える。他にも興味深い惣菜を買っているが、育ち盛り、食べ盛り継続中の男子高校生3人と大学生だ。多くても困らない。
「俺あんまり料理得意じゃないけど、大丈夫?」
「問題なし。作れるようになろうか」
不安そうな蒼司だが、沸騰さえさせなければ基本的に味噌汁に難しいことは無い。教えるから、と言いながら諒は味噌汁に入れる具材を渡した。
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