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それから、どれ位の刻が経ったのだろう。
目を覚ますと、俺は見知らぬ部屋にいた。
(ここ、は……?)
ゆっくり上体を起こすと、周囲の様子を窺う俺。
と、ドアが開く音と同時に、弾んだ声が辺りに響き渡った。
「晴人様?!良かった、目が覚めたのですね!」
ああ、これはマリアの声だ。
俺は彼女の声につられる様に、声がした方を振り向く。
と、彼女の顔を確認するより早く、顔がなんとも柔らかいものに包まれた。
「良かった……!もう、目が覚めないかと思っていたのですよ……!」
マリアの胸に抱きしめられたのだと気づいたのは、彼女の声が頭上から降って来たからだ。
そうして、俺はそこで――自分の身に起きたことを全て思い出す。
(ああ……そうだ。俺……スキルがなくて……父さんに見捨てられて、兄さんに殺されそうになったんだ……)
自分の身に起きた出来事を思い出し、俺が再度絶望していると……そんな俺の両手を、マリアがそっと包み込む様に握って来た。
「晴人様。スキルなんて関係ありません。晴人様はそのままで、十分素敵な方なのですよ。誰がなんと言おうと、あなたは私の勇者なのですから。どうか、胸を張ってください」
「マリア……」
マリアの言葉が俺の胸――その一番深いところまで染み渡り、潤していく。
気付くと俺は、静かに涙を流していた。
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