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そう。
天津甕星――天香香背男は昔、神々が国を平定する時、彼らに対してまさに弱点を突く様な様々な方法で抵抗をした星の神なのだ。
更に最後には、神への嫌がらせとして自らの姿を巨大な岩へと変え、あくまで道を阻んだという。
その神話の如く、今まさに目の前の英霊の弱点を突き、圧倒的不利な状況から勝利が見える寸前にまで現状を変えたスキル、天津甕星。
俺は必死に見えない刃に抗う少女を見つめながら、己のスキルが持つ大きな力に戸惑いを覚えていた。
(もしかして……この能力、最強なんじゃないか……?)
このままいけば、マリアを苦しめたあの英霊も簡単に倒す事が出来るだろう。
俺は激情のまま、天津甕星に少女の命を絶てと命令しようとする。
だが、そんな俺を止めたのは、他ならぬマリア本人だったのだ。
彼女はボロボロのまま上半身を起こすと、そっと俺の両手を包み込む様に握って来る。
そうして、まるで全てを見透かしているかの様に――そっと首を横に振った。
「晴人様……。貴方は本当は誰より優しい人。そんな貴方の力は、罪なき者を守り、困っている者を助ける為に振るわれるべきものです。……あの少女は、もう、戦う力もない筈ですよ」
「マリア……」
マリアの言葉に促される様に少女の方に視線を向ける俺。
と、少女は……いつの間にかぺたりと床に座り込み、大きな声を上げて泣きべそをかいていた。
「ふぇぇーん!現世怖いー!もうやーだー!」
まさに見た目相応――幼い少女らしく号泣する少女。
その表情には演技をしている様子は一切なく……俺は、渋々、能力を解除した。
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