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天香香背男――その名前を聞いた瞬間、僕や父、それに兄達の間に緊張が走る。
何故ならば、天香香背男というのは――、
「どんなご大層なスキルかと思ったら、まさか日本神話の大悪党様のスキルとはなぁ」
そう、昼也兄さんが言う通り、天香香背男というのは、実は神々が昔の日本を平定しようとした時、最後まで争った逆賊……悪神の名前なのである。
俺は、今日に備えて日本神話を死ぬほど読み漁っていたから先ず間違いはない。
つまり、俺のスキル名――いや、スキル自体が、とんでもない悪神の加護の賜物ということなのだ。
この思ってもみない事態に、慌てて俺が振り返ってみると――明らかに失望した表情で、父や上の兄達が俺を見ているのに気が付いた。
だが、まだだ。
(まだ、挽回のチャンスはある……!)
大切なのは、これがどんなスキルか、だ。
俺は少女に手を引かれ、スキルを使用するための間――所謂、試し撃ちの場へと移動する。
勿論、父や兄達……それに、マリアも一緒だ。
「晴人様……」
心配そうに俺を見上げるマリア。
俺はマリアに大きく頷いてみせると、的に向かって手を翳す。
そうして、深呼吸をし、
「天津甕星!!!」
と、唱えた。
が、何も起こらない。
辺りは水を打った様に静まり返り、嫌な沈黙が俺の周りを包み込んでいた。
(まさか、そんな筈ない……!)
俺は的に向かって再度手を翳すと、もう一度「天津甕星」と唱える。
しかし、何も起きる気配はない。
その後、俺は何度も何度もスキルを使ってみたが、結局何かが起きることはなかった。
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