杉沢晴人は勇者になれない~悪役神に与えられたスキル、実は最強でした~

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微風すら起こらなければ、業火が噴き出る訳でもない。 大地を揺らすことも出来ないし、物が浮いたりもしなかった。 そう、文字通り何も起こらなかった。 何度スキル名を唱え、スキルを発動させても、全くと言って良いほど何も起こらなかったのである。 (な、なんで……?) 絶望し、その場に膝をつく俺。 と、そんな俺に(おもむ)ろに父が近寄って来た。 そうして、俺のことを見下ろすと、吐き捨てる様にこう告げたのである。 「まさか、こんなハズレスキルだとは。……どうやらお前自体も、とんだハズレの息子だった様だ」 「父さん?!そんな……!」 俺はなんとか手を伸ばすと、父の脚に(すが)ろうとする。 しかし、そんな俺の手を父は乱暴に蹴り飛ばした。 「黙れ、触るな。杉沢家は名誉ある勇者の家系。何の力もない人間は不要。お前は我が家にはいらない人間……最早、ゴミクズ同然なのだ」 (ゴミクズ……?俺が……?) 父親から放たれた無情な言葉に、激しい絶望感に包まれる俺。 と、そんな俺に兄の炎矢が近寄って来た。 (そうだ……炎矢兄(えんやにい)は優しい人だから、きっとわかってくれる!父さんとのこともとりなしてくれるに違いない!) 「え、炎矢兄っ……!俺……!」 俺は一縷(いちる)の望みにかけ、長兄へと手を伸ばした。 すると――、 「火之迦具土神(ほのかぐつち)」 なんと炎矢兄が俺に向けて炎をぶつけて来たのである。 「う、うわぁぁぁ?!」 尊敬していた筈の兄の炎に焼かれ、悲鳴をあげてのたうち回る俺。 「晴人様?!」 そんな俺に向け、マリアが盆をつかむとその水を急いでかけて来た。 「な、なんで……?炎矢兄……?」 (俺達は家族で兄弟で……あんなに仲良くして来たじゃないか……) しかし、優しかった筈の炎矢兄は、今まで見たこともない様な冷たい瞳を俺に向けて来た。 「黙れ。俺は日本を代表する勇者なんだぞ?勇者である俺の弟がこんなゴミだなんて知られたら、俺の評価が下がるじゃないか」 俺を汚物でもみる様な目で見つめたまま、そう吐き捨てる大好きだった兄。 そうして兄は手を(かざ)すと……再度、俺に向かって容赦無く業火を放って来たのだ。 「杉沢家の恥晒しは消えるが良い……火之迦具土神(ほのかぐつち)」 突然の家族の裏切りに、攻撃を避けることはおろか、動くことすらできない俺。 「晴人様、危ない!」 そんな俺にマリアが飛びつくと、そのまま一緒に横に転がる。 が、容赦無く何度も炎をぶつけて来る長兄。 マリアは、俺をぎゅっと抱き締めるとこう言った。 「スキルなんて関係ありません。晴人様は晴人様……私の大切な家族で、恩人です。晴人様は必ず私がお守りしますから」 そうして、そう言い終わると同時、俺を強く抱き締めたまま――神社の隣にある広くて深い池に飛び込むマリア。 冷たい水に飲み込まれ、俺の意識はぷつりとそこで途絶えた。
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