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近藤らと同じ、縞の木綿の着物に折り目の入っていないぼろ袴を纏った浪人姿。長身で肩幅が広く、首の上には役者と見紛うばかりの秀麗な相貌が載っている。涼しい目元に、すっと通った美しい鼻筋――。
「近藤さんの気持ちも考えろ」
顔立ちに似合わぬ低く野太い声で美丈夫は言った。
「土方さん」
永倉の声に反応して芹沢が振り返った。
「土方?」
「芹沢さん、あなたもです」
土方歳三は一礼しながら慇懃に言った。
「なに?」
「近藤は土下座までして謝っているじゃありませんか。いい加減、子供じみた真似はおやめください」
「なんだと」
芹沢は床机を蹴って立ち上がり、蛇のような目で土方を睨みつける。
「もう一匹のドン百姓が、この俺に意見する気か」
「これ以上の乱暴狼藉は、浪士組の存立にかかわります」
「黙れ、百姓!」
土方はきっとした目で芹沢を見据え、静かに言葉を発する。
「たとえ百姓でも……」
一見穏やかだが、声には凄みがあった。
「剣の腕は、あなたより上ですよ」
「ほう」
芹沢の目が、好奇に光り輝いた。
「一つ、試してみるかい」
言うが早いか刀の柄に手をかけ、一歩間合いを詰める。
土方もぐっと前のめりになった。
「いい加減にしないか!」
山岡が両者の間に割って入った。
「組内での刃傷沙汰はご法度。どうしても戦うというのなら、この山岡鉄太郎が相手になる」
鞘から刀を抜き取り、上段に構える。
その気魄に圧されてか、芹沢は刀の柄から手を離すと、頬を緩めてにんまりと微笑んだ。
「売られた喧嘩ですよ、山岡さん――。私が売ったわけじゃない」
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