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「そんな話は即刻断ってください」
屯所に戻った近藤が、容保と大久保の提案を試衛館一門に諮った直後、山南敬助が不快そうに吐き捨てた。
藤堂平助がすぐに同調し、永倉新八、原田左之助、斉藤一の三人もそれに続いた。
「正直、金は喉から手が出るほど欲しいがな」
永倉はそう付け加えるのも忘れなかった。
「俺もそれを考えたんだ。攘夷を行なうにしたって金は必要だからな」
と、土方が言った。
「問題は幕臣になるということですよ」
そう発言したのは原田である。「隊士の多くは尊攘の志を抱いて脱藩し、浪士となった者たちです。近藤さんや土方さんには分からないかもしれないが、我々には二君に仕えずという不文律がある。元の藩に戻るならまだしも、幕府に仕えるのは筋が違う。というより、禁忌なのです」
これに永倉と藤堂が同調した。
「たしかに再び仕官するなら元の主君が筋だ」
「右に同じ」
武士階層出身の彼らには、到底受け入れがたい提案のようだ。
ちなみに永倉は松前藩、藤堂は伊勢津藩、原田は伊予松山藩の出身である。
別の観点から反対したのは山南だ。
「私が恐れるのは、新撰組が江戸の新徴組のようになってしまうことです」
新徴組とは、清河八郎に率いられて東帰した浪士組の後身である。清河暗殺後、庄内藩お預かりとなり、「新徴組」として幕臣に取り立てられたが、自由を奪われ、ただの岡っ引きになり下がり、攘夷集団としての矜持は完全に失われた。
「まったく同じやり口じゃないですか」
これには全員が、ハッとしたような顔になった。
「私は市中見回りの仕事を継続することまでは同意します。少額とはいえ会津藩より金銭を戴いている以上、京の治安維持には協力したい。しかしそれは攘夷の実行までです。来年早々大樹公が上洛していらっしゃる。それまでは、たとえ貧しくとも歯を食いしばって尽忠報国の士を貫こうではありませんか」
山南の訥々とした、しかし真心のこもった弁舌は一門を納得させるに充分だった。
「まったくその通りだ、山南さん。やはり禄位の話は断ることにしよう」
近藤は言って、土方を見た。
「いいかい、歳さん」
「ああ」
土方はこっくり頷く。「俺が間違ってたよ。山南さんの言う通り、この話は無理筋だ」
翌日、近藤は松平容保に禄位辞退上書を提出し、拒絶の意思を表明した。
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