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 数日後、芹沢は三番組小頭を罷免された。かがり火事件の責任を取らされたのである。  ところが翌々日、今度は浪士取扱付に栄転を果たす。理屈に合わない人事だが、これは山岡鉄太郎が、隊内に残しておくと何をしでかすか分からないとの恐れから、隊と切り離し、執行部側へ取り込んだものだ。  真相はどうあれ、芹沢としては念願だった清河と同じ「別格扱い」を手に入れたことになる。近藤の失態を利用して、自らの地位を高めた形だ。  だからだろうか。以来彼は近藤と顔を合わせるたび、近藤さん近藤さんと親しげに話しかけ、「百姓」と蔑んだことなどすっかり忘れ去ったかのような親愛の情を示した。  大物を気取る人間の常として、他人を脅しと賺(すか)しの両面で支配しようとする傾向があるが、芹沢もまさにそんな人種の一人である。  土方、山南ら試衛館一門に対しても、宿場宿場で酒を差し入れる気遣いを見せた。貧乏道場出身で、出発に先立ち服も新調できなかった彼らとしては、忸怩たる思いを内心に抱きつつも、謝してその酒を受け取り、道中の慰めとした。  近藤は、宿の取り忘れという失態の負い目もあって、以後芹沢に頭の上がらない状態が長く続くこととなる。
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