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近藤勇の剣術の弟子であり、学問上の師であった小野路村(東京都町田市小野路町)の豪農・小島鹿之助の日記によれば、当時村内は黒船の話で持ちきりで、心配のあまり酒を飲む者はなくなり、三歳の子供までが黒船の話をしていたと記述されている。
黒船艦隊を率いるペリー提督は江戸幕府に対し、開国しなければ戦争をしかけると恫喝した。
「メリケンと戦になるのだろうか」
「清国はエゲレスに対し、手も足も出なかったそうだ」
土方と近藤は剣術の稽古が手につかなくなる。
清国(中国)で起きた阿片戦争(清国がイギリスに敗れた戦争)の噂はすでに多摩地方にも聞こえていた。
黒船襲来は、土方と近藤に「日本国」という意識を嫌でも目覚めさせた。
それまで「くに」といえば、武蔵野国や肥後国、薩摩国などを指し、日本列島はその集合体に過ぎなかった。
しかし外国という敵と対峙した時、はじめて「日本人」という意識が二人の中で芽生えたのだ。
二人だけでなく、当時の若い武士たちの多くが同じ意識を共有した。
その結果、何が起こったか。
脱藩である。脱藩ブームである。
各地の武士たちが、所属していた藩を脱し、日本人として行動を起こし始めた。
彼らは自らを志士と名乗った。
――もはや幕府も藩も当てにならない。これからは志士の時代である。
水戸や薩摩、土佐や長州などを脱藩した浪士(志士)たちが、各所で思い思いに結びついた。
そして「日本人」となった彼らの心に、「天皇」という存在が大きく浮かび上がってくることとなる。
江戸幕府はたかだか二百六十年。対する天皇は神代の時代からこの国に君臨している。
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