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年が明けて慶応二年(一八六六)一月二十日。
お琴が突然、土方を訪ねて屯所へ現れた。
何度か待ち合わせて外で食事をしたことはあるが、彼女が屯所へやってくるのは初めてのことだ。
それも非常に慌てた様子で、
「二人だけでお話がございます」
と蒼白の顔でいう。
人気のない八畳間に通し、ふたりきりになると、お琴は切迫した表情で切り出した。
「薩摩藩邸に、長州の桂小五郎さんが見えています」
「桂……?」
「十日ほど前から薩摩藩邸に滞在なさっています」
「どういうことだ」
桂小五郎といえば、長州藩の実質的な政治主導者である。
池田屋事件の際には、五つ時(午後九時)に訪問するもまだ同志が誰もおらず、出直すつもりで近くの対馬屋敷別邸に寄っていたため難を逃れている。
「なぜ、桂小五郎が薩摩藩邸に……」
「分かりません。ほとんどの時間をあてがわれた部屋の中で一人で過ごし、時折、西郷様と何やら密談をなさっているご様子」
「解せぬな」
「家中の者が申すには、同盟を結ぶお話ではないかと」
「同盟? ……馬鹿な」
土方は一笑に付した。
「薩摩と長州は犬猿の仲だ。手を結ぶはずがない」
「そうでしょうか」
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