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両者はいっこうに自説を曲げようとしない。
ふたりの間を何度も往復していた龍馬は、ついにぶち切れて怒声を発した。
「この国家の一大事を前に、おまんらは何をつまらん意地を張りゆうがじゃ」
桂の首根っこを引っ掴み、無理やり西郷の部屋まで連行すると、ふたりを向かい合わせに座らせる。
「おまんらいったい十日の間になんぼ話し合うたがじゃ」
聞くとたったの三日間、それも半刻ずつに過ぎないという。後はそれぞれの部屋に閉じこもって相手が妥協してくるのを待っていたのだ。
「アホか、おまんら」
龍馬が怒鳴りつける。
「じゃっどん、坂本どん。おいどんにも立場がありもす」
西郷は、第一次長州征伐軍において参謀という役職にあった。その立場上、今回幕府が下した処分案をとりあえず長州には呑んでもらわなくては困ると言い張った。
「もしおいどんがそいを撤回すれば、先の征長に協力してくれた諸藩の怒りを買うてしまう。たとえ長州と同盟がなっても、他の西国大名を敵に回す結果になりもす」
これに対し桂は、藩主と世子の隠居や十万石の削減など到底応じられぬ、と断固として譲らない。
両者の強情ぶりに閉口した龍馬は、なんとか打開策を見出すため、
「いったん、処分案の対応は棚上げして、別の角度から話をしてみようやないがか」
と提案した。
「どげな意味でごわす?」
「桂さんは幕府の処分案は飲めんと言う。そうなると戦争は避けられんことになる」
「その通り」
桂が言った。
「では、実際に戦争になった場合、薩摩は一体どちらの側につくかということが最大の問題となってくるがで」
「その通り!」
「待ってたもんせ。その前に戦を回避するこつを考えっとが先じゃ。じゃっで……」
「同盟っちゅうのは、戦が勃発した時、互いに協力し合う関係のことを言うがやき」
「その通り!」
「まずはそれを決めようやないがか。処分案への対応など細かいことは後回しじゃ」
「ううむ」
西郷は腕組みして背を反らし、唸り声を上げて宙を睨んだ。
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