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「我々は、八・一八の政変や池田屋での恨みを忘れたわけではございません。特に池田屋には私も顔を出す予定になっていた。私はあの日、殺されていたかもしれないのです」 「池田屋は我々は関係なか。新撰組が勝手にやったこつでごわす」 「そうでしょうか?」  桂が眉を吊り上げた。 「新撰組の背後には薩摩がいると聞いております。新撰組は、なぜか薩摩の浪士だけは襲わないと」  西郷は豪快に笑った。 「そげんこつは嘘でごわす。誰が言うちょるんですか。そげんこつを!」 「京都中の噂でござる」 「馬鹿な」 「では、その証拠を見せていただきたい」表情一つ変えずに言った。 「証拠?」 「新撰組を……我々とともに討っていただきたい」 「ちっくと待て。ほがぁな話やないろうが、今日は」  龍馬が会話をさえぎるように言葉を発するが、桂は無視して話を進める。 「あの日、私はたまたま池田屋に早く着き、出直そうとよそへ寄っていたために命が助かった。助かった者の使命として、死んでいった者たちの弔い合戦をせねばならない。それが薩長同盟の条件です。これを呑んでいただかなければ、私は長州に帰れない」 「こんまいことにこだわるな。大事(だいじ)の前の小事(しょうじ)じゃ、ほがぁなことは」  その瞬間、桂はぎろりと目を剥いて龍馬を見据えた。 「小事(しょうじ)なくして大事(だいじ)なし!」  野太い声で言うと、西郷に視線を戻して続ける。 「人間の信頼関係は、小事から始まる。小事もできん人間に、大事ができますか」 「分かりもんした。どげんすればよかですか」 「新撰組討伐に、兵隊をお貸しいただきたい」 「わしゃ、ほがぁなやり方は好かんぜよ」  龍馬が両手を広げて口を尖らせる。
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