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「同志の敵討(かたきう)ちなんですよ」 「おまんらだって天誅と称して開国派の人間をこじゃんと斬ったろうが。お互い様じゃ」 「なに」  桂の表情がこわばった。  くわっと両目を見開き、 「我々と奴らを一緒にするんですか」 「ああ、おんなじじゃ」 「我々は勤皇の志士でござる。あのような山猿どもと一緒にされてはかなわぬ」 「何を言うがじゃ。長州は現在、天朝から敵対視され、討伐軍を差し向けられる身やないがか。勤皇の志士の称号は、今や新撰組の側にこそあるがやぞ」 「なんだと」 「ほんまのことやないがか」 「おのれ!」  鋭い声で叫ぶや、腰の脇差を瞬時に引き抜き、目にも止まらぬ速さで龍馬に襲い掛かった。  桂は江戸の三大道場のひとつ「練兵館」で神道無念流を学び、入門からわずか一年で塾頭をつとめたほどの剣豪である。  不意を衝かれ、思わずうずくまる龍馬に馬乗りになると、襟首をつかんで首元に白刃を突きつける。 「やめんか!」  西郷が一喝した。 「桂さん。薩長同盟ができんごつなってもよかですか!」  桂は龍馬を瞋恚(しんい)の目で睨みつけたまま、首に押し当てた白刃をゆっくりと離す。 「桂さん」  西郷が落ち着き払った声で言った。 「喜んで協力しもんそう。新撰組征伐に薩摩藩から人手をお貸しします」  桂は所定の位置に座り直すと、何事もなかったようににっこり頷いてみせた。   
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