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 孝明天皇が――崩御したのである。  義弟家茂との間で公武一和の実現に努めてきた天皇が三十六歳の若さで逝った――。  死因は天然痘と発表された。 「そんなのは出鱈目(でたらめ)だ」  将軍と天皇の相次ぐ変死に、土方は不審の目を向けた。  いくら一寸先は闇だといっても、若き将軍と天皇が相次いで命を落とすなど尋常ではない。    将軍の死はともかく、攘夷にこだわりつづけた天皇のこの時期の変死は、いやでも疑惑を呼び起こす。 「天朝は殺されたんだ。間違いない」 「めったなことを言うもんじゃないよ、歳さん」  近藤がいさめるように言った。 「でも、他に考えようがあるか。公武一和に尽力し、長州征伐を主導したお二人が続けざまに亡くなるなんて、敵にとってこれほど都合のいいことが自然に起こるものか! 天朝は毒を盛られたんだ」  天皇死去の報を受けて、新撰組では急遽、近藤の部屋で幹部会議が開かれた。  出席者は総長・近藤、副長・土方、参謀・伊東の三名である。 「これで公武一和が崩れる可能性が出てきたわけです」  話し合いの口火を切ったのは伊東だった。 「もし朝廷と幕府が分裂した場合、どちらの側につくか、新撰組の方針を決定しなければなりません」 「待て」  土方が低い声で言った。 「新撰組は公武一和が崩れぬよう尽力するのが役目」 「ですから、もし、と申したのです。もし崩れた場合はどうするか」 「左様なことは考えずともよい」 「これは土方さんらしくもない」 「なに」 「一寸先は闇。それが口癖ではありませぬか。ならば当然公武分裂も想定しておかねばならんでしょう」   土方は言葉に詰まった。 「近藤さんは江戸で私に申されましたよね」  近藤に向き直って続ける。 「自分は勤王の志士であると」 「無論だ」近藤が答えた。「土方も含め、新撰組は志士の集まりである」 「であれば、朝廷と幕府が対立した場合は、朝廷側につくということでよろしいですね」 「左様なことが起こらぬように、我々は……」 「ですから、もし、です!」  伊東が語気を荒げる。 「もし対立が生じた場合はどうするかと訊いているのです」
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