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「どういうことだ、近藤さん」  新天皇の誕生から二ヶ月後の三月十日。  土方は憤懣をその顔に湛えて近藤の部屋へ乗り込んだ。  そこには伊東を始めとする十数名の伊東一派が居並んでいる。  伊東の両隣には、藤堂平助と斎藤一のふたりが神妙な顔で座っている。 「局中法度を忘れたか、伊東。隊を脱する者は切腹!」  土方は刀の(つか)に手をかけ、居丈高に言い放った。 「分からぬ御方だ」  伊東は呆れたようにかぶりを振って言葉を継ぐ。 「脱退ではなく、別組織なのだ。したがって、局中法度違反には当たらぬ」 「そんな詭弁が通用するか」 「事実なのだから仕方あるまい」  土方は近藤に視線を移す。 「近藤さん、あんたが許可を与えたというのは本当か?」 「ああ」  近藤は腕組みし、目を閉じて頷く。 「一体、何を考えてるんだ」    再び伊東に向き直ると、 「近藤さんが許しても、この俺が許さない」 「あんたに権限などない。総長はあくまで近藤さんだ」 「黙れ」 「貴様こそ黙れ。副長の分際で何様のつもりだ」 「なんだと」 「歳さん」  と、近藤が口をはさんだ。 「伊東さんたちは薩長の動きを探るため、分派活動をしたいと言ってるんだ」 「薩長の動きを探る?」 「左様。拙者は訊問使として広島入りした際、長州の藩士らと親しく交流を持った。江戸では道場に長州藩士が多数在籍していた」 「それがどうした」 「彼らに再び接近して情報収集しようと思うのだ。そのため新撰組を脱退したように見せかけ、彼らを信用させる」  近藤が補足するように、 「伊東さんたちは孝明天皇の御陵衛士(ごりょうえじ)という名目で隊を離れるのだ。すでに朝廷より拝命を受けている」 「先帝の墓守という立場で相手を油断させ、得た情報を近藤さんに流します」 「騙されんぞ」  土方は伊東をねめつけた。 「薩長に接近して、新撰組を裏切る気だろ」 「土方さん、少しは人を信用した方がいいですよ」  言ったのは藤堂平助だ。  土方は藤堂を見すえると、 「お前は試衛館一門ではなかったのか。いつから伊東一派に鞍替えした」 「私は試衛館でも伊東一派でもない、新撰組隊士です」
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