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  「斎藤」  今度は斉藤を睨みつける。 「貴様も恩を仇で返す気か」  斉藤は床を見つめたまま、何も答えない。 「行こう」  伊東の一言で、藤堂と斎藤が腰を上げ、他の十数名も一斉に立ち上がる。   「近藤さん、失礼します」  伊東は一礼し、仲間を引き連れ部屋を出ていった。 「あの野郎」  伊東一派が去ったあと、土方が歯軋(はぎし)りして言った。 「絶対、寝返る気だ」 「かもしれん」  近藤が低い声で言う。 「だったらなぜ分派活動を許したんだ。薩長の情報を収集するなんて言ってるが、事実上、反幕派の旗揚げだろう」 「だが脱退するわけじゃない。隊規違反には当たらないよ。それに孝明天皇の御陵衛士になることは朝廷から正式に許可が下りている。朝廷が認めた行動を罰するわけにもいくまい」 「じゃあ、このまま好き勝手やらせる気か」 「まあ、まずは様子を見てみようじゃないか」  近藤の鷹揚な態度に、 「このまま放置したら寝首をかかれるぞ」 「そんなヘマはしないさ」  「伊東を殺そう」  目の奥を光らせ、鋭利な声でいった。 「そんなことをしたら、新撰組が真っ二つに割れてしまう」 「今だってすでに割れてるだろ。藤堂の奴、俺たちへの恩を忘れて伊東になびきやがって。斉藤にしたってそうだ」 「藤堂や斉藤以外にも、伊東さんを慕っている人間は大勢いる。最初は永倉や原田も連れていきたいと言ってきたんだぞ」 「なんだと」 「放っておいたら数十名規模で脱退者が出るところだった。それを伊東さんに頼んで、十六名に押さえてもらったんだ。芹沢の時とは状況が違う」 「だからって、何もせずに放っとくのか!」 「俺に考えがある。任せてくれ」 「あんたじゃ無理だ」  見下すように言った。 「なに」  近藤は眉を吊り上げる。
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