4

7/8
前へ
/236ページ
次へ
「俺はもう駄目だ」 「また、そのようなことを」 「本当だ。もう長くない」 「怒りますよ」  と口先を尖らせる。 「さよには、もうどこにも行くところがないのです。沖田様しかいないのです。生きて、私を幸せにしてください」  沖田は弱々しくほほ笑むだけで、答えようとしない。  その瞬間――、機をはかっていたかのように、土方が柱の陰からひょいと姿を現した。 「よお」  たまたま通りかかった風を装い、笑顔で語りかける。 「あ、土方さん」  二人は同時に気付き、ぺこりと一礼した。  土方は庭へ降り、ふたりに近づいていく。 「さよさん、いつも済まないね。沖田が世話になっています」  心から謝するようにいう。 「土方様。聞いてくださいよ」  さよは告げ口するように口を開いた。 「沖田さんたら、私の前だと甘えて、すぐに弱気なことばかり言うんですよ。俺はもう駄目だ。もうすぐ死ぬって」  土方はからからと笑う。 「お前が労咳くらいで死ぬタマか」  沖田は何かいおうとするが、すぐに胸を波打たせ、咳き込んでしまう。 「さ、お部屋へ戻りましょう」  さよが腕をとり連れて行こうとする。沖田はそれをふりほどいて、 「土方さんと話があるんだ。さよは先に戻っててくれ」 「でも……」  さよは躊躇し、土方のほうを見る。土方がうなずくのを見て、了解した顔で一礼し、その場を去っていった。    さよの姿が見えなくなるのを確認してから、沖田は土方に向き直る。 「伊東さんたちが、別組織を立ち上げたそうですね」 「ああ、孝明天皇の御陵衛士になるという名目でな。――どうせ薩摩か長州と裏でつるんでいるんだろう」 「放っておいて大丈夫ですか」 「朝廷から拝命を受けていて、切腹を申し渡すわけにもいかないんだ」  土方は苦笑しながらいった。 「すみません。こんな大事な時にお役に立てなくて」
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加