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「心配するな。伊東ごときにやられる俺じゃない」 「そうですよね」  と、土方を頼もしげに見つめる。 「実は……」  沖田は話題を変えるように言葉を発した。 「近藤先生にもお願いしたんですけど……土方さんにも、是非、お頼みしておこうと思いまして」 「何だい」 「はい」  少し言いにくそうに顔を曇らせたあと、 「もし……私が死んだら……」  と、深刻な表情で切り出す。 「おい」  土方は思わず声を尖らせた。 「めったなことを言うもんじゃない」 「ですから、もし……と申し上げました。もし、私が亡くなったら……」 「そんな話は聞きたくない」 「真剣なんです。どうか聞いてください」  沖田の強い訴えかけに、土方は言葉を吞み込む。 「私が死んだら……さよのことをお願いしたいのです。彼女は父親を殺され、池田屋も人手に渡ってしまいました。お袋さんは中気(ちゅうき)で寝たきりの状態で、彼女が頼れるのは私しかいないんです」 「……」 「親父さんを手にかけたのは私たちです。私には、彼女に人並みの幸せを与えてあげる責任がある。……だから……私が死んだら……さよのことを近藤先生と土方さんにお願いしたいのです。彼女の生活が立ちゆくように、どうか助けてやっていただけませんか」  目の縁が赤らみ、唇は小刻みにふるえている。沖田のさよに対する愛情が痛いほどに伝わってきた。 「こんなこと、おふたりにしか頼めません」 「分かった。約束する」  安心させるように、力強くうなずいた。  そんなことならお安い御用だ。 「ありがとうございます」  沖田は頬に涙をしたたらせながら、深々とこうべを垂れた。
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