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生麦事件とは、昨年、幕政改革を求めて江戸に入った薩摩の島津久光一行が、帰路生麦村(横浜市鶴見区生麦)において行列に乱入してきた騎馬イギリス人を斬り殺してしまった事件である。
その謝罪と賠償を英国は求めているのだ。
時期が悪すぎる。
天皇の前で攘夷を誓おうとしている矢先、犯人の引渡しや賠償金の支払いに応じられるわけがない。
だが、拒絶すれば戦争である。
戦争となればこの国が壊滅的な打撃を受けることは避けられない。
どうすればいいのか。
若き将軍は、解決不能の難題を前に煩悶した。
寝ずに一人で対策を検討した。
結果、どうしたか――。
逃げたのである。
英国への返事を保留したまま、勝海舟の順動丸の到着を待つことなく、陸路・東海道を京へ向かったのだ。
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