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  「横浜に英艦隊集結す」  との報は京にいる幕閣の耳にも届いていた。  当然、激震が走る。  現在、幕政の実権を握っているのは、将軍後見職の一橋慶喜と政事総裁職・松平春嶽の二名である。いずれも島津久光主導による幕政改革によって新設された要職だ。  早速、対策会議が開かれたが、この二人の意見が対立した。 「事ここに至っては、小手先の誤魔化しは通用しますまい」  そう言ったのは、前越前藩主にして政事総裁職の松平春嶽。 「この上は、攘夷は不可能であると正直に上奏し、お許しをいただけないのであれば、徳川家は政権を返上して東海の一大名に戻りますると申し上げるほかござらぬ」  実に思い切った提言だった。春嶽としては、孝明天皇が「そこまで言うのなら仕方がない」と攘夷撤回に転ずるのに賭けたのだろう。 「馬鹿な」    それに対し顔を真っ赤にして反論したのは一橋慶喜である。  徳川御三家の水戸藩出身で、体内に徳川の血潮を色濃く有する彼としては、到底受け入れられる案ではなかった。 「さような真似をして、もし天皇が『それなら徳川は故郷へ戻るがよい』と申されたらどうするのじゃ」 
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