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浪士組が京に到着したのは二月二十三日のことである。
本部は壬生にある新徳寺に置かれ、隊士たちはそれぞれ近くの郷士宅に分宿となった。
近藤以下試衛館一派には、八木源之丞邸があてがわれた。
夜になって隊士らに呼び出しがかかる。清河八郎から、全員に話があるという。
集合場所の新徳寺本堂へ行ってみると、ほぼ全員が集結しており、何事が始まるのかとざわついている。
取扱役の鵜殿鳩翁や取締役の山岡鉄太郎からではなく、清河八郎から話があるという点を誰もが奇異に感じている様子だ。
清河は道中、隊には属さず、ずっと別行動を取っていた。
もちろん、浪士隊の影の主役が彼であることは、皆、薄々気付いていたし、何より清河は、尽忠報国を標榜する志士たちにとっては憧憬の対象であり、英雄の一人である。
そんな彼の口から、一体どんな言葉が飛び出すのか。全員が息を詰めて待った。
やがて清河がゆっくりと姿を現した。そのカリスマ性を強調するように、隊士たちを焦らし、期待を煽った上での登場だった。
芹沢鴨ほどではないが長身で、色が透き通るように白い。武芸者というより学者然とした風貌である。
その優男から飛び出した最初の言葉は、穏やかな中に強固な意思を感じさせるものだった。
「まず初めに確認しておきたい。我々は幕府の招集に応じて京へ上ったとはいえ、幕臣ではない。自由人たる浪士である。日本人たる志士である。我らを繋ぐ言葉はただ一つ。尽忠報国の一語にござる。これにご異存ござるまいな」
ぎろりとした目で聴衆を見渡す。皆、呑まれたように首肯した。
「ご異存はないと見て、話を進めたい」
再び一同をねめつけてから、語気を強めて言葉を継ぐ。
「我々は京での大樹公警護という名目で集められたわけだが、それは真の目的ではない。大樹公が攘夷の実行を朝廷に約束した暁には、攘夷軍の魁となって夷てきと戦う。これこそが我らの本懐である」
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