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 これにも異議は出なかった。もともと皆その心積もりでの参画である。 「ということは、大樹公が上京してすぐに朝廷に攘夷の実行を約束すれば、警護役などという仕事は必要ないという理屈になる。そのまま異国との(いくさ)です」  違いますかな、と浪士らを睥睨(へいげい)した。 「そこで考えたのだが、我々浪士組は幕府の手を離れ、朝廷直属の攘夷軍となることとしたい。明日、学習院に上書を奉じ、正式に許可をいただく所存である」  途端に場の空気が揺れ、本堂内がざわついた。 「鎮まられよ」  清河が大声で言った。 「誤解なきように言っておく。決して幕府と敵対するという意図はござらぬ。大樹公の決意を引き出すための方便とお心得いただきたい」 「いかなる意味でござる」  聴衆の中から質問が飛んだ。 「ご承知のように、幕閣中枢には未だ開国を主張する輩が大勢おりまする。此度(こたび)の上洛にあたっても、のらりくらりと返答を引き延ばし、誤魔化そうと姑息に振舞うは必定。今、最も大事なのは、天朝(天皇)と大樹公がお心を一つにし、国を挙げて攘夷に邁進することでござる」  一歩踏み出して続ける。 「だからこそ我々は朝廷直属となり、攘夷軍となって、大樹公に決起を促すのでござる。幕府が攘夷を決意するのなら喜んで共に戦うが、これまでのような逃げ腰を続けるなら我々だけで決起する。この必死の思いが、大樹公に届かぬはずがない」  清河は大きく床を踏み鳴らした。 「尽忠報国の旗印のもとに結集された皆様方が、よもやこの提案を拒絶することはあるまいと思われるが、如何(いかが)!」  凄まじい気魄だった。  そして、完璧な演説だった。
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