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場の空気に圧され、気付くと血判状に署名させられていた試衛館一門は、八木邸に戻るや、それぞれに感想を口にする。
「凄いですねえ、あの清河って人物。噂には聞いていたけど、やっぱり巨魁だ」
沖田総司が興奮気味に捲くし立てた。
「弁舌一つで、何百という人間を一つの方向へ導いていく。それも名だたる荒くれどもを相手にですよ」
山南敬助と藤堂平助が大きく頷いて言葉を発する。
「江戸と京で二度も攘夷軍を組織した人物だからな」
「人間としての器が違いますよ」
二人はともに北辰一刀流の出身。この流派は創始者の千葉周作が水戸藩で剣術師範をしていた関係で水戸学に造詣が深く、尊皇攘夷思想が特に強いことで知られる。
煮え切らない幕府を追い込むために取った清河の秘策を、見事だ、と二人は賞賛した。
槍の名手・原田左之助は、
「とにかく完璧な演説だった。何て頭のいい奴なのかと思ったよ」
と感心したようにかぶりを振る。
「結果的に幕府を手玉に取ったことになるもんな」
と言ったのは永倉新八。
「だってそうだろう。自分の罪を免除してもらって、妻や弟や同志を牢獄から救い出した上にだぜ、二百名以上の尊攘の志士を幕府の金で集めてもらって、それを自分の私兵にしちまったんだから」
「私兵ではない。朝廷直属の部隊だ」
最年長の井上源三郎が言った。
「でも戦になりゃ、清河の指示で動くわけだから奴の軍隊と変わらんだろ。あれだけの戦略家なら、付いていこうって気にもなるぜ」
永倉の言葉を聞いて、近藤勇が小さく頷く。
「確かに清河さんなら、腰抜けの幕閣連中よりよほど信頼がおけるな」
近藤は内心、少なからぬ痛快を覚えていた。
彼には幕府に対する恨みがあるのだ。
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