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八年前のこと。
旗本や御家人に武芸を教える講武所が築地に創設されることになり、その教授採用試験を受けた近藤は見事合格内定を勝ち取った。
家柄や出自を問わず優秀な者を選ぶという謳い文句通りに、剣の技量が評価されたのだ。
近藤は欣喜雀躍し、土方ら門人たちもこれで天然理心流が広く世に認められると感涙を流した。
ところが、正式採用の通知が待てど暮らせどいっこうに来ず、一年以上経った頃、有名道場の道場主が採用されたことを知らされた。
近藤のもとには一通の不採用通知が届けられたのみである。
身分不問と言いながら、結局は百姓出身の三流道場主には幕府の教授は任せられぬというわけだ。
この時の近藤の憤りと落ち込みようは尋常ではなかった。
以来、全てにやる気を失くし、多摩への出稽古も沖田や山南らに任せきりとなった。
しばらくして立ち直った彼は、それまで以上に尊皇攘夷運動にのめりこんでいくことになる――。
「歳さんはどう思う?」
近藤は、先ほどから黙って柱に背をもたせ掛けて座っている土方に問いかけた。
土方はひとり、先ほどからまったく意見を発していない。
日頃から無口で、弁舌を得意としない彼は、皆が白熱の議論を交わしている中、黙って聞き役に回ることが多い。
「どうって、何が?」
「清河さんの提案だよ」
「どうもこうもねえ。もう血判状に署名しちまったじゃねえか」
「それはそうだが……」
「俺は、天朝と大樹公が一緒になって攘夷をやってくれるなら、方法なんぞどうだっていい」
「俺も同じ考えだ」
近藤は満足そうに頷くと、一同を見回して続ける。
「では試衛館一門は、清河さんの方針に従い、一致団結して事にあたるということでいいかな?」
近藤の問いかけに一同は、おう、と野太い声で応じた。
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