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「山南さん。これから歳さんと町の視察に出るんだが、一緒に来ないか」  近藤がふたりを誘うが、 「すいません。我々は土佐藩邸に用事があるので」  と、丁重に断られた。 「土佐藩邸?」  土方が怪訝な顔で訊ねる。 「土佐藩に何の用があるんだ」 「坂本さんですよ」  山南が笑顔で答えた。 「坂本龍馬さんに会いにいくんです」  坂本龍馬は土佐藩の勤王党出身の志士である。  山南、藤堂と同じ北辰一刀流の使い手で、山南とは桶町の千葉道場で共に学んだ仲だ。 「坂本さんなら、脱藩したんじゃなかったのか」  昨年の三月に土佐藩を抜け、幕府軍艦奉行並の勝海舟の弟子になったはずである。 「はあ……そうなんですが、また土佐藩に戻るそうです。それで今、京の土佐藩邸にいるらしくて」 「意味が分からねえ」  土方は近藤と顔を見合わせて首をかしげた。  一度脱藩した者が、ふたたび藩士に戻るなど聞いたこともない。 「私もよく分からないんです。勝さんの弟子は続けながら、土佐藩にも戻るということらしくて」 「そんなことができるのかい」 「さあ、どうなんでしょう」 「まったく変わった人だよな」  近藤が笑った。  土方と近藤は、江戸で一度だけ坂本龍馬と会ったことがある。  山南の紹介で酒席がもうけられたのだが、酔いが回るほどに龍馬の独演会となっていき、滔々とこの国の行く末について論じ続けた。  正直、龍馬の言っていることの半分も二人は理解できなかった。  土方と近藤の目指す三条大橋は土佐藩邸から目の鼻の先なので、四人は途中まで同行することにした。  八木邸を出て、四条通りを東へ進む。  と、烏丸通りと交差するあたりで、向こうから睨めつけるような目付きの浪人五人組が道を横一杯に広がり肩で風切るように歩いてくる。  通行中の町人たちは関わりを避けるように慌てて道の両端へと逃げていく。    最近このような狼藉者が京都市中を跋扈しているという噂は事前知識として聞いていた。
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