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「どうする?」  土方が悪戯っぽい瞳で聞いた。悪ガキの目だ。 「おいおいよせよ、歳さん」  近藤が苦笑する。 「ここは京都のしきたりに従いましょう」  という山南の発言に、 「郷に入っては郷に従えと言いますからね」  二十歳の藤堂が続けた。  四人は大人しく道の端に寄り、浪人たちをやり過ごした。彼らが去った後、その後ろ姿を見送りながら土方が、 「けっ、調子づいてやがらぁ」  顔をしかめて舌打ちした。  現在、京の町は長州の志士たちに支配されている。  天誅(てんちゅう)と称するテロ行為が白昼堂々と行われ、幕府寄りの開国派公卿はもちろん、外国貿易で富を得ている商人らも暗殺の標的になっている。奉行所や京都所司代にそれを取り締まるだけの力はない。  ちょっとした無法地帯である。  彼らを恐れて開国派公卿たちは口を閉ざし、朝廷内では三条実美(さんじょうさねとみ)姉小路公知(あねのこうじきんとも)といった攘夷派の公卿たちが勢力を拡大している。  今回の将軍上洛も、天皇の意思というより、三条らの画策によって実現した部分が大きい。  三条らは裏で長州の志士たちと繋がっている。  志士らが天誅によって開国派公卿を恐怖の底へと落とし込み、黙らせ、その隙に三条らが思い通りの政策を朝廷内で実現する。見事な連携プレイである。  長州の志士たちがこれほどまでに京都で跋扈するに至ったのには訳がある。
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