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「完全に長州の天下です。朝廷を思うがままに操っていて、誰も逆らえません。まるで長州国ですよ、京都は。でもまあ、そのお陰で攘夷が実現できるわけですから、感謝しなくちゃいけないんですけどね」 「まあな」  と近藤が頷いた。 「斉藤、お前はずっと長州の連中と一緒に行動していたのか」  井上源三郎が訊いた。 「知り合いは大勢いますよ。でも本当の仲間になるのはなかなか難しいです。ここでは関東出身の浪士は差別されますからね。あ、そうそう。あまり大っぴらにお国訛りで話さない方がいいですよ」 「どういうことだ」 「馬鹿にされますから、田舎者だと。できるだけ、西国の言葉に合わせた方がいいです」 「そんなこと言ったって……」  と藤堂。 「俺は嫌だぜ。おいどんとか、そうじゃけんとか、なにをしゆうがぜよ、とか言うのは」 「お、うまいじゃねえか」  永倉のボケに原田が突っ込んだ。 「京都弁を覚えればいいんですよ。はんなりしていい言葉ですよ。私が教えて差し上げます」  斎藤が言った、その時だった。 「いえ。その必要はありません」  沖田総司がすっくと立ち上がった。 「どうした、総司」  近藤が言った。  他の者たちも沖田に視線をやる。 「近藤先生と土方さんにはすでに申し上げたんですが、実は皆様に大変嬉しいお報せがあるのです」  そういえば、たしか朗報は三件あると言っていたな……と、土方は玄関先での会話を思い出していた。  お琴からの手紙と、斉藤の来訪、そしてもう一つは――、
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