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「……そうですね」  近藤は気迫に呑まれたように首肯した。 「諸君はどう思う?」  芹沢は、土方ら試衛館一門の方に顔を向けて問いかけた。 「どう、といいますと?」  土方が静かに問い返す。 「俺はあの清河って男は完全に馬脚を現したと思うねえ。最初は幕府を追い込んで、攘夷せざるをえない状況にするなんて言いながら、結局は我慢しきれずに自分たちだけで突っ込もうとしている。俺はここに残って大樹公の警護をするのが筋だと思う。そして大樹公がご英断を下されたあかつきには、命をなげうって異国と戦うんだ」 「芹沢さん」  土方が低い声で言った。 「申し訳ありませんが、その件に関しては試衛館の面々だけで話し合いを持ちたいと思います。芹沢さんたちは、ご自分の部屋にお引取り願えませんか」  その慇懃無礼な物言いに、 「なに」  と、芹沢の顔が引きつった。  近藤が、まずい、という表情で土方を一瞥する。近藤は本庄宿での一件以来、芹沢には頭が上がらないのだ。    だが土方は平然とした態度で、 「どうかお願いいたします」  芹沢を見据えながら臆することなく言った。  その気魄に圧されたのか、 「お、おう……そうか」  芹沢は顎を引き、 「まあ……そうだな。考える時間が必要だよな」  そう言って、素直に立ち上がる。  近藤とは違い、脅しに屈せず挑戦的な態度をとってくる土方を、芹沢は苦手にしている様子だ。  新見錦らとともに部屋を出てゆこうとして、襖の前でふと立ち止まると、振り返って近藤を見た。 「近藤さん、忘れるな。清河は二度も攘夷軍の旗揚げに失敗した男だ。江戸で一度、京で一度。そんな奴に付いてったって、碌なことはねえぜ」  そう言い置き、自分たちの部屋へ引き上げていった。  芹沢一派が去った後、試衛館部屋の空気が緩み、安堵の溜息が一斉に漏れた。
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