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「話し合うも何もないでしょう」   議論の口火を切ったのは山南敬助だ。 「芹沢さんの言っていることは、ただの屁理屈です。自分より信望を集める清河さんに嫉妬しているだけです。我々の念願は攘夷のはず。従来通り、清河さんに付いていくのが筋だと考えます」 「私も、山南さんと同意見です」  二十歳の藤堂平助がつづいた。  一門の中でも特に尊皇攘夷思想の強いふたりは、清河を尊崇しているところがある。  他の者たちは視線を交わし合うだけで、自分の意見を述べようとはしない。  そんな彼らの気持ちを代弁するように沖田総司が口を開いた。 「私はどちらでもいい。近藤先生の決断に従うまでです」 「俺も同じ考えだ」  井上源三郎が小さく頷く。  生粋の試衛館育ちであるふたりは、あらゆる局面で近藤を立てようとする。  近藤が逡巡している様子を見て、まずは近藤の意見を引き出そうとしたのだろう。 「うーん」  近藤は苦り切った顔で唸り声を発し、太い腕を組んで目を閉じた。  決断がつきかねている様子だ。  と、その時、 「俺は……」  土方が、ぼそりと控えめな声を発した。  全員が彼を見る。 「芹沢さんの言っていることも……まんざら分からないでもない気がするんだ」  それを聞いて、誰もが一様に驚いた表情になる。  普段、芹沢のことを一番悪()し様に言っているのが他ならぬ土方だからだ。 「俺と近藤さんは、京へ着いてから毎日のように街の様子を見て回った。そりゃあ、ひどいもんだよ。天誅と称して、白昼堂々殺人が行われ、日本人同士が殺し合っている。本来ならば皆が力を合わせて異国と対峙しなければならん時に、それぞれが別々の方向を向いて、いがみ合っている」  近藤が黙って頷いた。 「今、ここ京都には天朝と大樹公が二人揃っていらっしゃる。こんなことは歴史上、滅多にあることじゃない。それだけの緊急事態がこの国を襲っているということだ――。俺はお二人にとことん話し合っていただきたい。話し合って、お心を一つにして攘夷に当たってほしいんだ。そうでなけりゃ、攘夷など成功するはずがないじゃないか」  近藤が再び首肯する。
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