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「そもそも俺たちは、大樹公が天朝の前で攘夷を約束するというから浪士組に参加したんだろう。それなのに、一ヶ月や二ヶ月が待てないっていうのか。芹沢さんが言うように、我々はお二人を信じて待つべきなんだと思う。それが筋ってもんじゃないかな」
その時、沖田がニタリと笑った。
日頃、口数が少なく、政治的議論の場では聞き役に回ることが多い土方が、いつになく熱く自説を語ったものだから、その頬が弛んだのだろう。
永倉と斎藤も、土方の弁舌に感じ入っている様子で、小さく頷いている。
土方は急に照れくさくなったのか、咳払いをひとつすると、
「いや、これは」
と言い訳するように続ける。
「単なる俺の個人的な考えであって、沖田の言うように近藤さんが決めた方針に従うつもりだよ」
その時、永倉新八が口を開く。
「私は……土方さんの言われることが正論だと思います。天朝と大樹公を仲たがいさせるような先走った行動は、現時点では慎むべきでしょう」
井上源三郎が同調するように、
「私も、大樹公が決断を下されるまで、静かに待ちたいと思います」
「右に同じです」
と、原田左之助。
「私も土方さんに一票」
斎藤一が追随した。
どうやら、大勢は決したようである。
「どうします、近藤先生」
沖田が近藤に決断を促すように問いかけた。
近藤は閉じていた目を開き、山南と藤堂の方を見る。
「山南さんと藤堂が了解してくれるなら、俺は残留の方向で結論を出したいと思う」
北辰一刀流の出身である二人は、互いに顔を見合わせた後、考えるような間のあとで、
「私はやはり、清河さんについていくべきだと考えます。大樹公が攘夷を決断されるとは、とても思えないのです。土方さんの意見には反対です。……しかし、皆さんがどうしても京に残りたいと申されるなら、強く反対することは致しません。……近藤さんの決定に従わせていただきます」
山南が忠誠を誓うように言うと、
「私も山南さんと同じ考えです」
藤堂が同調した。
近藤は満足そうにうなずいて、一門を見渡す。
「では、この件に関しては、俺に一任ということでいいかな」
「はい」
全員が声を揃えた。
こうして芹沢派と近藤一門は、将軍が帰東するまでの間、京に残留することとなった。
ほかにも十名ほどの浪士が幕府の要請に従って、京に残る道を選んだ。
総勢二十四名。
長くてもせいぜい数ヶ月の滞在だろうと、近藤らはこの時、気軽に考えていた。
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