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「どういうことでございましょうか」
近藤は目の前の松平容保におずおずと問いかけた。
京都残留が決定してから四日後の三月十六日。
この日、京都守護職御預かりとなった残留組の代表者四名――近藤、土方、芹沢、新見――は初めて謁見を許され、京都守護職屋敷に上がって容保と対面した。
京都守護職とは、京の治安が悪化し従来の町奉行所と京都所司代では手に負えなくなったため新たに設けられた役職である。
といってもただの地方組織ではない。政冶総裁職(松平春嶽)、将軍後見職(一橋慶喜)と並ぶ三役の一つに位置づけられ、老中をも凌ぐ幕府の要職である。
「我々は、大樹公の京での警護役として集められたのであり、攘夷の実行まではその任務をまっとうしたく存じます」
近藤が語気を強めて言った。
「だから何度も申しておろう」
松平容保は苛立った様子で言葉を継ぐ。
「警護と申しても仕事らしい仕事はないのだ。大樹公は大坂へ視察に出られる以外、ずっと二条城に篭もっておられる。その方らの出る幕はない」
人質同然の将軍に行動の自由はなく、従って警護の必要はないという。
「二条城内で警護に当たることは叶いませぬか」
「立場をわきまえよ」
容保が高ぶる声で言った。
「旗本、御家人ならいざ知らず、浪士であるお前たちを二条城に入れるわけにはいかぬ」
そう言われては、近藤も黙るしかない。
「そこで、大坂視察時の将軍警護はやってもらうが、それ以外の日は市中見回りの仕事を受け持ってもらいたいのだ」
「我々に岡っ引きの真似をせよと仰るのですか」
沈黙する近藤に代わって、芹沢が口を開いた。
容保は意に介することなく、
「これは攘夷を目指す上で重要な任務である」
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