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 と語気を荒げた。 「現在、天朝と大樹公が同じ京の都にあって、公武合体が成るかどうかの瀬戸際にある。本来ならば静かにお見守りせねばならぬところ、街中で悪事を致し、いたずらに動乱を策謀せんとする悪人どもが跋扈しておる。これらを取り締まり、天朝と大樹公のお心を(たい)らかにして差し上げる。これは将軍警護の任と変わらぬ重責だと思うが、如何」 「しかし」  と近藤が反駁する。 「取り締まる相手は、同じ尊皇攘夷の志士ということになりまする」 「馬鹿な」  容保は笑った。 「尊攘の志士ではなく、不逞浪士を取り締まるのじゃ。よいか、志士にも二種類ある。有為の志士と不逞の志士じゃ。我らが取り締まるのは不逞の志士である」  四人は顔を見合わせる。 「どのように区別すればよろしいのでしょうか?」  近藤が視線を容保に戻して訊ねた。 「簡単なこと。有為の志士は犯罪に手を染めたりはせぬ。人を(あや)めたり、商家を恐喝したり、あるいは大樹公を誹謗中傷したりする者はすべからく不逞の輩である」  四人は再び互いの顔を見合わせる。 「わしは尊攘の志士に刃を向けるつもりは毛頭ない。だからこれまで、友好的に接してきたつもりじゃ。こちらへ来てから長州の志士たちと何度も会合の席を設けたが、わしが守護職である間は貴殿らを取り締まることはないとはっきり申し渡しておる」  そこで一旦言葉を区切ると、 「しかしだ」  と、声の調子を高めた。 「先日三条大橋で起こった足利将軍の梟首(きょうしゅ)事件でわしの考えは変わった。あのようなことをする輩は尊攘の志士などではない。ただの罪人である。従ってわしは不逞の者どもに対しては断固たる措置をとることに決めた」   容保は四名を一人ひとり見て、 「京の町を鎮めることこそが、公武一和への、ひいては攘夷断行への道筋となる。その方らが真に志士というのであれば、心を尽くしてこの任に当たってほしい」  と熱い眼差しで告げた。
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