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「ちょっと待ってください。そんなの、町奉行所の仕事じゃないですか」
八木邸の試衛館部屋に戻った土方と近藤に対し、山南敬助が真っ先に噛み付いてきた。
「我々は尽忠報国の志士ですよ」
「まあそう堅苦しく考えるな、山南さん」
近藤が疲れきった顔で座り込む。
「しかし……」
と、なおも食い下がろうとする山南に、
「近藤さんも頑張ったんだ。でも会津公に押し切られた」
土方が擁護するように言った。
「私はとうてい納得できませんね。芹沢さんはどう言ってるんです?」
山南は憤然としたままだ。
「適当にやってりゃいいってさ」
と土方。
「え?」
「市中取り締まりをしてるようなふりをして、町をぶらついてればいい。見回りに出ない者は昼間から酒でもくらって寝てりゃいい」
「はは、あの人らしいな」
沖田が笑った。
「容保様だって、俺たちにただ飯を食わしておくわけにはいかんのだ。仕方ないさ」
近藤が言った。
「それに過激派の志士を斬れとおっしゃってるわけじゃない。捕縛して町奉行所に引き渡すのが我々の役目だ。刑罰はあくまで奉行所がくだす」
「でも手向かってきた時はどうなります?」
「そんな奴は志士でもなんでもないだろう。それこそ容保様がおっしゃるように、ただの不逞浪士だ」
「そんな深刻に考えることないですよ、山南さん。芹沢さんがおっしゃるように、適当にやってりゃいいんです。すぐに攘夷が始まるんですから。それまでの繋ぎ仕事ですよ」
沖田が笑いながら言った。
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