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 将軍がついに攘夷決行を決断した。  それも五月十日という期限を定めて――。    この報せに、試衛館一門は狂喜乱舞した。  ついに待ちに待った時がやって来たのだ。    彼らは四月二十一日、大坂に入った。  将軍の摂海視察に同行し、その警護に当たるためだ。  視察自体は以前から決まっていたことだが、将軍が直前に攘夷を決断したことで、その意味合いは大きく変わっていた。  ここ摂海は攘夷戦争の舞台となる場所なのだ。  京都残留の浪士組は、将軍が通る道筋の護衛を担当した。  この晴れ舞台に、彼らは忠臣蔵の討ち入りを模した、袖口に山型のダンダラ模様をあしらった水色の隊服を新調して臨んだ。  芹沢の考案である。  無名の京都残留組をまずは見てくれでアピールしようというわけだ。  はたして、その思惑は当たり、沿道の見物人からはやんやの喝采が沸き起こった。  初日の役目を終え、大坂天満橋の舟宿京屋忠兵衛方に戻った試衛館一門は、心地よい疲労の中で、上京以来初めてともいえる充実感を味わっていた。 「やはり京に残って正解でしたねえ」  沖田が畳の上に大の字になって言った。 「ああ、大正解さ。天朝と大樹公がお心を一つにしてここ大坂で攘夷が行われる。これ以上めでたいことがあるかよ」  原田左之助が目に涙を滲ませている。 「あと二十日足らずで攘夷か。腕が鳴るなあ」  藤堂も喜びを抑えきれない様子だ。 「慌てて江戸へ戻った連中、今頃さぞ悔しがっているでしょうね」 「ざまあみろってんだ」  沖田と井上が顔を見合わせて笑った。  
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