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「近藤さん」
その時、井上が、改まった顔つきで声をかける。
「何です、源さん」と振り返った。
「昨日からずっと考えていたのですが、新たな隊士を緊急に募集すべきではないでしょうか」
「隊士の募集……ですか」考え込むようにいう。
「現時点での浪士組はわずか二十四名に過ぎません」
「そうですね」
残りはすべて清河に率いられて江戸へ帰ってしまった。
「この人数でエゲレス相手に充分な働きができるとは、とても思えません。五月十日まで時間がありませんが、このご時勢です、募集をかければ、四十や五十はすぐに集まるのではないでしょうか。相手は巨大なエゲレス艦隊です。一人でも多くの同志が欲しいところです。壬生の浪士組は役に立たなかったと言われたのでは、末代までの恥辱」
「確かに人数は欲しいところです」
「そこで、山南さんや藤堂とも話し合ったのですが」
振り返って二人を見る。
すぐに近藤に視線を戻し、
「明日からお勤めが終わった後、それぞれが大坂各所へ散って、隊士の募集を行なおうと思うんです」
「そうしていただけると有難い」
「それでですね」
井上が身を乗り出して口を開く。
「新隊士の募集要項に関して近藤さんから許可をいただきたいと思いまして」
「というと?」
「江戸の浪士組募集と同じく、『尽忠報国の志さえあれば、その身分、出自を問わず』。この一点でいきたいのですが、よろしいでしょうか。つまり、農民だろうと商人だろうと、腕に心得があり、尊攘の志があるならば喜んで受け入れる」
「問題ないでしょう」
近藤が首肯した。
「浪士組の存立理由はその一点に尽きます。私や土方のような百姓の出でも受け入れてもらえる」
「あ、いや、そういう意味では……」
井上が慌ててかぶりを振る。
近藤はその困った顔を見て、愉快そうに、あはは、と大口を開けて笑った。
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