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 彼は隊士募集にあたり、 「尽忠報国の志さえあれば、既往の罪は一切免除する」  との方針を打ち出した。  清河や獄中の池田徳太郎らを隊士に加えるための策である。  しかしこれが前科者や政治犯、あるいは祐天吉松のようなヤクザの大親分まで呼び寄せる異常事態を招いてしまった。    中でも芹沢鴨はもっとも厄介な人物だった。  水戸天狗党出身というブランドを鼻にかけ、組内での指導的立場を狙っている。当初、六番隊の小頭に任命したが、 「拙者は何事においても一番でなければ気がすまない」  と言い出し、一番隊小頭の根岸友山と譲れ譲らないで大喧嘩を始める始末。  結局、三番隊小頭に移動させて一件落着となったが、出立後に再びごね出し、今度は清河八郎と同等の地位を求めてきた。  清河は隊に属さず、別格の「筆頭」という扱いで、隊から少し遅れて付いてくる。だが実質浪士組の影の指導者は清河であることを浪士たちは皆うすうす知っている。なにしろ江戸と京で二つの大掛かりな攘夷軍挙兵を企てた、尊攘派きっての巨魁である。 「拙者は清河氏と同格の待遇を得る資格があると思うが、如何」  芹沢がそう申し出た時、山岡は内心ふざけるなと思った。  ――貴様ごときを清河先生と同列に扱えるものか。  だが表情にはおくびにも出さず、慇懃に申し出を退けた。     以来、絡んでくる。執拗に絡んでくる。 「山岡氏は清河塾の門下生のため、清河氏をえこひいきしているのであろう」  面と向かって言ってくるし、陰でも吹聴しているらしい。  正直、うっとうしくてかなわない。
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