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呉服商菱屋太兵衛の妾だったお梅は、主人に頼まれて代金の催促に屯所を訪れた際、芹沢から天狗党部屋に引きずり込まれ、無理やり手込めにされた。
以来、奴隷のように付き従い、玩具にされ続けている。
「話を聞こうか」
芹沢が居住まいを正し、改まった声で言った。
近藤は頷き、おもむろに口を開く。
「我々は摂海における攘夷戦争において、身命を擲ってこれに当たる所存でありました。しかしご承知のように小笠原長行の愚行によって攘夷は延期を余儀なくされ、しばしの間、また市中見回りの任に当たらなければならなくなりました」
「それが?」
「隊士の数も五十名以上に膨らみましたし、今後新たな隊士が加わることも考えますと、壬生浪士組をきちんとした組織として再編すべきだと思いまして」
「つまり?」
「局長を決めようと思います」
「局長?」
「はい。容保様からも、命令系統を明確にせよとお達しがきております」
芹沢は、ふっ、と口元を歪めて笑い、次の瞬間、拍子抜けした表情になった。
「いきなり部屋に乗り込んできて何の話かと思ったら、そんなことか」
「そんなこととは何ですか」
近藤の隣に控える土方が鋭い声を発した。
「決めるまでもなかろう。芹沢先生以外に誰が最高責任者になるというのだ。馬鹿馬鹿しい」
新見が不快そうに吐き捨てた。
「芹沢先生が局長では不服だと申すか」
「不服ではございません。ただ……」
と、土方。
「ただ?」
「京に残った浪士組のうち、芹沢先生の一門が五名。我々近藤勇門下が九名でございます」
「それがどうした」
「芹沢先生が局長になられるのは当然として、最大派閥の長である近藤も局長になるのが筋かと」
「貴様、自分の言っていることが分かってるのか!」
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