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「僕はこれまで芹沢さんを誤解していたようだ。あの人はただの暴れん坊なんかじゃない。本当は凄い人なんだ」
それを聞いて、土方の顔が曇った。
「どこが凄い。他人の女を手込めにして奪い取るような野郎のどこが凄いんだ」
興奮気味に続ける。
「可哀想にあのお梅って女は旦那の元へ戻れず、芹沢のしもべみたいにして暮らしているんだぞ」
「分かってないなあ、土方さんは」
と沖田。
「なに」
「彼女は帰れないんじゃなくて、帰らないんですよ。惚れちまったんだなあ、芹沢さんの豪快なところに」
「馬鹿な。そんなことがあるものか」
「それがあるんですよ。土方さんは女心が分からないんです」
「なんだと」
「お琴さんから毎日のように手紙が来てるのに、一通も返事を書いてないじゃないですか」
「それとこれとは関係ねえだろ」
土方が怒ったようにいう。
すると藤堂と斉藤の二十歳コンビが沖田の背後に歩み寄り、意味ありげな微笑を浮かべた。
「そりゃ、沖田さんは女心が良く分かっていらっしゃいますよね」
「なんたって、三条小町と謳われる池田屋の一人娘と、ついに逢引きに漕ぎつけたんですものね」
「ば、ば、馬鹿」
沖田が途端に泡を食った顔になる。
「なんだと」
ぎろりと沖田を睨みつけたのは永倉である。
「逢引きだぁ?」
「いえ、ち、ち、違うんです、永倉さん」
「この野郎。一人だけいい思いしやがって」
永倉が沖田を押し倒した。覆いかぶさって、脇の下をくすぐる。
「きゃは、きゃは、きゃはははははは」
身を捩って笑い転げる若き塾頭に、
「ざまあみやがれ」
土方が満面の笑みで言った。
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