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「歳さん。これを見てくれ」
土方が屯所の六畳間(近藤が個人の書斎として使用している)に足を踏み入れると、近藤は沈鬱な顔で手紙を差し出してきた。
土方は手紙を一読した後、天井を見上げてふーっと長い溜息をついた。
最近、江戸からの便りが頻繁に届く。
いずれも帰府を促す内容ばかりだ。
小野路の小島鹿之助、日野の佐藤彦五郎、それに近藤の妻や、三代目・近藤周斎からのもので、
「道場の経営が立ちゆかなくなっているから、攘夷がないのならさっさと戻ってこい」
というものだ。
そもそも浪士組は、将軍の十日間の京都滞在の護衛のために結成されたもので、それが終わればすぐに帰府の予定だった。
いつまで経っても帰ってこない近藤らを郷里の人々は心配し、また不審がっている様子である。
江戸にも「壬生狼」と揶揄される残留浪士組の悪い噂は聞こえているらしく、とにかく一度帰郷しろとしつこく迫ってくる。
特に今回の手紙は、近藤にとって心痛を覚えるものだった。
義父である近藤周斎が病に倒れたというのだ。
中気(脳血管障害の後遺症)でほぼ寝たきりとなり、道場に顔を出すことさえままならない状態らしい。
近藤の妻・つねは、ほとんど泣き落としに近い文面で近藤に帰郷を促している。
「近藤さんだけでも、一度江戸へ帰ったらどうだ」
長い手紙を畳みながら土方が言った。
「そうしたいところだが……」
近藤は苦渋の顔で言葉を継ぐ。
「芹沢さんに無理を言って局長にさせてもらったのに、自分だけ休暇を取るわけにはいかんだろ」
「それはそうだが」
近藤は息を一つ吐いて、
「金でも送ろうかと思ってる」
ぽつりと言った。
土方は怪訝な顔で盟友を見る。
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