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「金なんかねえじゃねえか。どこにあるんだ」 「はは」  近藤は頭を掻いて苦笑した。  会津藩から支給される雀の涙ほどの賃金では、日々の生活をまかなうだけで精一杯だ。 「明日から芹沢さんを見習って、大店から用心棒代でもせしめ取るかな」  冗談めかして、近藤がいった。 「そりゃ、いいや」  と笑顔で応じつつ、近藤にはそんな阿漕(あこぎ)な真似ができないことを土方は充分承知している。  と、その時だった――。 「なんだ、てめえは」 「どっから入ってきやがった」 「叩っ斬ってやる」  裏口の方から激しい怒号が聞こえてきた。  何事だろう。  土方と近藤は刀を手に立ち上がると、急いで裏口へと駆けつける。  そこには芹沢鴨とその一門四名がおり、一人の浪人者を捕まえ詰問していた。  浪人者は押さえつけられながら、 「入口を間違えただけじゃき。わしゃ、別に怪しいもんじゃないがぜ」  と必死に弁明している。 「ここに友達がおるから、来ただけやき」  土方と近藤は、浪人者の顔を見て、すぐに破顔した。 「坂本さんじゃないですか」  近藤の声に浪人者が視線を振り向ける。  途端にパッと瞳が輝いた。 「おう、近藤さんやないがか。それに、土方さん」  地獄に仏といった顔つきで、 「ええところに来てくれた。この人らに説明しとおせ。わしゃ、山南さんに会いに来ただけやき」 「芹沢さん。この人は、土佐勤王党出身の坂本龍馬さんです」  近藤が芹沢に説明する。 「坂本?」  芹沢の右眉尻がぴくんと吊り上がる。 「今は幕閣の勝麟太郎さんのもとで働いています。芹沢さんも名前くらいは聞いたことがあるでしょう」 「山南敬助さんとは千葉定吉先生の道場で共に剣を学んだ仲やき。それで、会いに来たがやき」  坂本龍馬の説明に、新見錦ら四名は納得した様子で束縛を解いた。  龍馬は袴についた泥を払いながら立ち上がる。    
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