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  「なんだと」  次の刹那、芹沢は身を翻すと、脱兎のごとく龍馬目掛けて突進する。  走りながら、刀の鯉口を切り、右手を柄にかけ、一刀のもとに斬り捨てんと鞘から引き抜いた。  上段に振りかぶったところで、突然立ち止まり、凝固する。  龍馬の懐から、黒い鉄製の筒が飛び出していたからである。  銃口はまっすぐ芹沢の心の臓に向けられている。  二人は至近距離で睨み合ったまま、一対の蝋人形のように立ち尽くす。  針先のように尖った沈黙の時間が流れる。  やがて芹沢がゆっくりと静止を解いた。  刀を鞘に戻すと、 「いやぁ、まいった、まいった」  笑いながら、おどけたように両手を大きく広げる。  つられて龍馬の顔にも微笑が湧いた。  芹沢は何もなかったかのような屈託のない表情で、 「また会おう、坂本さん」  言って、右手をかざすと、くるりと背を向け、門の方へ歩き去っていった。  
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