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 また、出発前に清河からある計画を密かに打ち明けられた身としては、その遂行に際し、芹沢のような人物が障害になるのではないかと危惧を覚えていた。  清河以外の前科者や犯罪者、ヤクザ者などは選考時に全て除外すべきであったと、今更ながら後悔が込み上げる。  その時、宿割担当の男が息せき切って走りこんできた。  百姓のような(しま)の木綿の着物姿。小倉の袴はぼろぼろで満足に折り目すら入っていない。刀を差していなければ、誰も武士とは思わないだろう。 「近藤君。芹沢さんの宿を取り忘れたというのは本当か?」 「申し訳ございません」  部屋割り担当の男は深々とこうべを垂れると、芹沢の方に向き直り、 「芹沢先生。現在、皆で手分けして空いている宿を必死で探しておりますので、今しばらくお待ちください」  鬼瓦のようないかつい顔を蒼白に歪め、額から冷たい汗を大量に噴き出しながら言った。  芹沢は、ふん、とほくそ笑んで鉄扇を開くと、悠然と顔を仰ぎ始める。  その時、若い浪士が飛び込むように駈けこんできた。 「近藤先生」  近藤はさっと振り返り、 「どうだった、総司」  と期待を込めて問いかける。  紅顔の美青年・沖田総司(おきたそうじ)は、険しい顔で首を左右に振った。 「駄目です。どこも空いていません」  続いて山南敬助(やまなみけいすけ)が走りこんでくる。 「駄目です」  近藤より一つ年上の食客は、問われる前に結果を告げた。  さらに、永倉新八(ながくらしんぱち)井上源三郎(いのうえげんざぶろう)藤堂平助(とうどうへいすけ)原田左之助(はらださのすけ)が相次いで現れるが、答えはいずれも否(いな)であった。  近藤の顔が歪みを増し、両拳がぎゅっと握り締められる。 「水戸天狗党の芹沢鴨もナメられたものよのぉ」  芹沢は笑みすら湛えた顔で言った。
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