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「坂本さん、今日はゆっくりしていけるんでしょう?」  山南が訊ねた。 「ああ、夜まで予定は入っちゃーせん。山南さんと久しぶりに語り明かすつもりで来ちゅう」 「では、酒盛りといきましょう。どうです、近藤さん?」 「いいねえ」  近藤が破顔した。 「我々としても、この国の行く末について、坂本さんの展望を是非お聞かせ願いたいところです。朝まで飲み明かしましょう」 「喜んで」 「おい、総司。酒を買ってこい」  と、懐から金を取り出し、沖田に手渡す。 「行ってきます」  と、沖田が部屋を飛び出そうとした、その時だった。 「あっ!」  突然、龍馬が何かを思い出したように大声を発した。 「しまった。すっかり忘れちょった」  蒼い顔で立ち上がる。 「どうしたんです?」と近藤。 「土方さんに大事な話があったんじゃ」  と、土方の目の前まで行く。 「なんですか?」  土方が顎を引く。  龍馬は土方の鼻先まで顔を近づけ、まじまじと見つめた後、 「いやぁ、やっぱりええ男じゃのう。男から見ても惚れ惚れする。水もしたたる、とは、まさにおまんのことじゃ。これなら分かる。わしが女でも、きっと同じことをしたろう」 「え? 何の話です」  意味の分からぬ顔で問う。 「実はのぉ、おまんに土産があるがで」 「土産?」  きょとんとした顔になる。「何ですか」 「その前に、絶対に怒らんと、約束してほしいがじゃ」  胸の前で手を合わせる。 「どういうことです?」 「なんちゅうええき、約束してくれ。怒らんと。頼む」 「嫌です」  安請け合いはできないという顔でいった。 「わしとおまんの仲やないがか」 「あなたとは、これまで一度しか会ったことがありません」 「今日が二度目じゃ。二回会うたら、友達ぜよ」 「はあ?」 「とにかく、ちっくと待っちょってくれ。外に待たしてあるき」  そう言うと、いそいそと外へ出ていった。 「何なんだ、あの人は」  土方が呆れ顔で言い、一同を見渡す。  やがて龍馬が一人の若い女性を伴って戻ってくる。  肌が白く、うりざね顔で、清楚な外見の娘である。  年の頃は二十代前半だろう。  その顔を見た瞬間、全員が「あっ」と甲高い声を発した。 「お琴さん」  近藤が驚いて腰を浮かせる。  土方の顔が、みるみる朱に染まっていく。 「どういうことですか、坂本さん」  食ってかかるように、激しい口調で言った。 「怒らんちゅうて、約束したろうが」 「約束なんかしてない!」
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