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「話は江戸でついているはずだ。お前も別れることで納得したろうが」 「納得などしておりませぬ」 「したと言った」 「それはあなたが、このままでは我が国が清国のようになってしまう、この日本を異国の侵略から守るため身命をなげうって攘夷を決行したいと申されたから、それについて承知したまででございます」  お琴は一つ息を飲んで続ける。 「それなのに、今のあなたがなさっていることは何でしょう」 「なに」 「市中見回りと称して、ゆすり・たかりなどの乱暴狼藉を働き、あまつさえ、おなごを手込めにするようなことまでしているそうではありませぬか」 「わしがしているわけではない」 「同じことでしょう!」  顔を紅潮させて睨んだ。 「あなた方が(ちまた)で何と呼ばれているかご存知ですか。壬生狼(みぶろう)。壬生に住む狼と揶揄されているのですよ。こんなことをなさるために、私たちは別れたのでしょうか」 「女子供には分からぬこともあるのだ」 「いいえ、分かります」  お琴は目に涙をためて反駁(はんばく)した。「あなたが当初の志を捨てて、堕落してしまったということが」  「黙れ!」 「いいえ、黙りませぬ」 「世の中はお前が考えているほど単純ではないのだ」 「単純ではないから、ゆすり・たかりをしてもよいのですか。おなごを手込めにしてもよいのですか!」 「江戸へ帰れ。ここはお前の来るような場所ではない」 「帰りませぬ」 「勝手にしろ」  そう吐き捨てると、土方は逃げるように外へ駆け去っていった。
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